フェニーチェ歌劇場友の会
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ヴェネツィアからの便り (11月4日号)

日本のフェニーチェ・ファンの皆様、遅くなりました。
だんだん秋も深まりすばらしい季節に日本もイタリアもなってきました。
11月1日は「全聖人の日」で祝日です。今年は木曜日にあたったので金、土、日と連休になりました。10月31日のハローウィンという“新参”のお祭りが入って、ここヴェネツィアはごった返す人出です。この時期いいお天気というのは珍しいのですが、今年はこのところ春のように暖かく、ジェノヴァのあるリグリア地方では海水浴までできたようです。これも地球温暖化の影響でしょうか。
11月というと、本来ならヴェネツィアはかの悪名高き「アックア・アルタ」の季節であります。「アックア・アルタ」に関してはいろいろな情報が日本にも入っていて、私のほうにもたびたびびっくりするような質問が届くことがあるので簡単にご説明しましょう。
まず「アックア・アルタ」はいわゆる洪水や津波といった現象とはまったく異なるものなのです。まず世界地図を広げてみてください。ヴェネツィアはアドリア海という細長い袋状の海のどんづまりに位置しています。ご承知のように、海水は12時間毎に満ち引きを繰り返していますが、潮が引く時にアフリカからシロッコという風がふきあげてきますと、引くべき潮が引ききれずに袋状のアドリア海に残ることになります。そうこうしているうちに時間がたって潮位が満潮目指してあがってきます。引き潮で引ききれなかった海水が残っているところに満潮でまたまた海水が押し寄せてきます。この時、前出のシロッコが激しく吹いたりすると、余計に海水が押し上げられて行き場がなくなり、ヴェネツィアの街を水びたしにする、ということなのです。シロッコという風の季節が11月といわれています。
1966年の11月4日に歴史に残る「アックア・アルタ」が起こり、その時の潮位は1メートル98センチと記録されています。焼失前のフェニーチェにその時の海水の痕跡が残っていました。1メートル98センチというのは驚異的な高さで、最近では1メートル20センチを超える「アックア・アルタ」は起こっていません。稚拙な説明ですが、なんとかヴェネツィア名物「アックア・アルタ」現象をご理解して頂けましたでしょうか。
ともあれヴェネツィア滞在中に「アックア・アルタ」に遭遇したら、ゴム長靴を購入してサン・マルコ広場に出かけてください。湖のようになったサン・マルコ広場は必見です。
ゴム長は市内何処でも買えますが、靴屋などでは高いので、いわゆる荒物屋にいくと12ユーロぐらいです。ゴム長なしでハダシで水の中を闊歩しているツーリストを見かけますが(ドイツ人や東欧人に多い)、あれは危険です。地面にあふれている水は雨水ではありません。下水、汚水のたぐいと海水が混ざったものなのでハダシで歩くなどもってのほかです。

さて「アックア・アルタ」に関してはこのくらいにして「フェニーチェの近況」をお知らせしましょう。まず今月の目玉はマスネの「タイース」。2002年まだフェニーチェが再建される前に、マリブラン劇場で亡きマエストロ・ヴィオッティの指揮で上演されました。今回はフェニーチェに移してのリリースです。51歳という若さで逝かれたマエストロ・ヴィオッティですが、マエストロの思い出は今も強く熱く残っています。フェニーチェの再出発プロジェクトになくてはならない人物を私たちは失ったのでした。パイロットを失ったボーイング747機といったぐあいで、今まで墜落しなかったのが奇跡です。いつかゆっくりマエストロ・ヴィオッティについてはお話したいと思っています。
「タイース」ですが、演出、装置、衣装が大御所ピエール・ルイージ・ピッツィ。ピッツィはここヴェネツィアでは非常に愛されていて、フェニーチェにはほとんど毎シーズン登場します。2年前のヴェネツィア第一のイヴェント「カルネヴァーレ」の総監督も勤めています。彼の作る舞台は目に心地よくわかりやすく、豪華で聴衆に夢を見させてくれるのでしょう。10段重ねのデコレーション・ケーキ、といったかんじ。個人的な好みはともかく、5年前も今回も上々の評判でした。ただキャストはほとんど入れ替わっています。前回のアタナエル、M・PERTUSIに替わったS・ALBERGHINI、好演でした。主役のタイースはダリーナ・タコーヴァ、彼女のすばらしい「ルイーザ・ミラー」がまだ耳に残っていますが今回はレパートリーが合わなかったのかちょっと期待はずれ。彼女は先の4月のカーセンの「椿姫」もキャンセルしていて、彼女のファンである私としてはちょっと心配。「タイースは難しいワヨ」と言ってました。
ここで「タイース」での裏話をひとつ。ピッツィ大先生は、日本での知名度はどうなのか私にはよくわかりませんが、こちらではイタリア国内だけでなくヨーロッパレヴェルでもいわゆる重鎮です。ただ最近はお年のせいか、常軌を逸した(なんていうと大げさですが)いわゆるcapricciな言動が多くなって、今回は僧侶の役の合唱のテノールのカツラがお気に召さず、力いっぱいカツラをむしりとったのです。ご承知の様にカツラは帽子のように載せてあるだけでなくかなりな量のピンで止めてあるので強引にひきはがしたりしたらかなり痛いのです。このテノールは私の友達でかなり反体制精神が強く、組合活動にも活発に参加しているタイプなので、一触即発の危機になりました。こういうことが起こると最悪の場合ストライキにまで発展する事もなきにしもあらずなのですが、今回は人事課長、音楽監督秘書が中にはいってなんとか丸く収まりました。

Foto (c) Michele Crosera

もうひとつ今月の話題。昨日3日に「第九」でフェニーチェのコンサート・シーズンがオープンしました。指揮は2年契約で音楽監督になったイスラエル人のエリアフ・インバル。彼もフェニーチェとは長い長い関係です。マーラー、ワーグナー、ベートーベンなどをレパートリーとするマエストロです。どうも私達日本人は「第九」というと年末、なんですよね。コンサートの後は「良いお年を!」なんて言いたくなっちゃいます。こちらではまったく「第九」と年の瀬は関係なく、数年前には7月の暑いさかりに野外コンサートで「第九」でした。日本の音大生だった私には「第九」は特別な思い出ですが、こちらではもちろんそういった「思い入れ」はないので、オケも合唱もいまひとつ物足りなく感じてしまいます。

では今回はこの辺で。

 

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