なんといっても、戦後いち早くヴェネツィアに観光都市としてのイメージを定着させたのは、デイヴィッド・リーン監督のアメリカ映画『旅情』(1955年作品)であろう。
オールド・ミス”(今どきこんな言葉も、死語になりつつある)のアメリカ女性ジェーン(キャサリン・ヘップバーン)が、ヴェネツィアで妻子あるイタリア男性(ロッサノ・ブラッツィ)と出会い、一夏のかりそめの恋におちいるというストーリーは、多くの女性の共感を得て大ヒットした。<BR> サン・マルコ広場でのカフェの出会い、ジェーンが8ミリ撮影に夢中になった運河に落ちるサン・バルナバ広場、男が一輪のクチナシの花を持って別れを告げたサンタ・ルチア駅など、まさにヴェネツィア名所を網羅した定番中の定番観光映画だが、さすがに名匠リーン監督だから、単なる観光映画に終わらせなかったところがヒットした原因だろう。